日本政府観光局(JNTO)の統計では、2024年の訪日外客数は約3,687万人と過去最高を記録し、その後も増加基調が続いています。ここで考えたいのは「その何割が、あなたの店の前を素通りしているか」です。訪日客の多くは、来日前も滞在中もスマホのGoogleマップで行き先を決めます。つまり、マップ上の情報が英語圏・アジア圏のユーザーにどう見えているかが、インバウンド集客の勝負どころになります。この記事では、訪日客がマップで店を選ぶ仕組みと、同じ商圏の店の間でどこに差がついているのかを解説します。整備すべき項目そのものは公開情報から並べられますが、自店がどこから手を付けるべきかは、立地・業種・競合の並びによって変わります。
数字で見る訪日客とマップ検索
訪日客の行動には、日本人客と決定的に違う点が1つあります。日本のグルメサイトや予約サイトをほぼ使わないことです。母国で使い慣れたアプリ——多くの国ではGoogleマップ——をそのまま日本でも使います。ホットペッパーや食べログにどれだけ投資していても、訪日客にはその情報が届きません。
一方で、Googleマップは世界中で同じ仕組みで動いています。あなたの店のビジネスプロフィール(GBP)は、何もしなくても英語や中国語のユーザーの検索結果に表示されます。カテゴリ名や住所は自動で翻訳され、口コミも翻訳ボタン1つで読めます。訪日客向けの「専用の広告枠」を買わなくても、土台はすでに存在しているわけです。問題は、その土台が選ばれる状態になっているかどうかです。
訪日客がGoogleマップで店を選ぶ仕組み
訪日客の検索は、日本人の「地域名+業種」検索とは少し違う動き方をします。典型的なのは次の2パターンです。
- 現在地起点の検索:ホテルや観光地から「restaurant near me」「ramen」などで検索。距離と評価で候補が絞られる
- 来日前のリサーチ:SNSや動画で見た店をマップで保存しておき、滞在中に保存リストから訪問する
どちらの場合も、Googleは検索者の言語設定に合わせてプロフィールを表示します。ここで効いてくるのが、ローカル検索の順位を決める3要素(関連性・距離・知名度)です。訪日客の検索は現在地起点が多いため、観光地やホテル密集地に近い店ほど表示機会そのものは多くなります。ただし距離は動かせないぶん、関連性と知名度で差がつきます。そしてそこは設計で動かせる部分です。どの言語のどの検索語で拾いにいくかを先に決め、そこから逆算してプロフィール側の作りを組み直す。順位はそうやって狙って獲りにいくもので、そこに口コミの積み上がり方が乗って差が開きます。観光ルートから外れた店ほど、この設計の差がそのまま順位の差になって表れます。
訪日客の口コミは母国語で書かれ、その言語のユーザーへの表示に影響するとみられます。英語の口コミが多い店は英語圏の検索で、中国語の口コミが多い店は中華圏の検索で選ばれやすくなる——という循環が生まれます。
訪日客がプロフィールで見ている情報
実際の運用で訪日客の反応を見ていると、彼らがプロフィール上で目を通している欄そのものは、日本人客が見ている欄と大きく変わりません。違うのは、同じ画面のどこに視線が集まるかの重み付けのほうです。言葉が読めないぶん判断は言語に依存しない情報へ寄り、文章で説明した部分はまとめて飛ばされます。どれが決め手になるかは、業種と、訪日客がどの場面でそのプロフィールに辿り着いたかで入れ替わります。来日前にSNSで見つけて保存された店と、滞在中に現在地検索で並んだ店とでは、読まれる情報がまるで違う。ここを取り違えると、時間をかけて整えた欄が誰にも見られないまま終わり、逆に見られている欄が空欄のまま残ります。整備の負荷は同じでも、成果の出方だけが変わってしまう部分です。
そして見られないまま終わった欄は、見られなかったという形では記録に残りません。どこから直すか決めかねている数ヶ月のあいだ、来ようとしていた訪日客は隣の店の並びに吸われ続け、その取りこぼしは自店の売上の「減った分」としては一度も表に出てきません。気づけるのは、同じ時期に近隣がどう伸びたかを後から聞かされたときだけです。
もうひとつ押さえておきたいのは、訪日客の判断材料には翻訳作業を必要としないものが相当量ふくまれていることです。「英語ができないからインバウンドは無理」という思い込みで、言語とまるで関係のない部分まで手が止まっている店が本当に多いのです。
多言語対応|翻訳より先に効いてくるもの
言語に依存しない情報で差がつく
翻訳に手を付けなくても動かせる領域が残っています。日本語のまま扱えるのに、訪日客の判断には直接効く部分です。翻訳から入ろうとして手が止まっている店ほど、ここが空欄で放置されています。ただし、どの種類の写真を厚くするか、どの属性を埋めることが効くかは商圏によって変わります。競合が同じ属性をすべて埋めているエリアでは、そこは差になりません。逆に誰も埋めていない項目が1つあれば、それだけで比較画面での見え方が変わる。この「どこが空いているか」の見極めが、作業量ではなく成果を決めます。
メニューの英語表記は「どこまで書くか」で割れる
フルの多言語サイトを作らなくても、写真付きメニューに英語を添えれば注文のハードルは下がります。論点はその先です。品名だけを訳すのか、主要な食材(豚・牛・魚介・アルコールの有無)まで踏み込むのか、辛さやボリュームまで書くのか。宗教やアレルギーの理由で食材を確かめたい訪日客がいる一方で、情報を詰め込んだメニューは日本人客にとって読みにくくなります。どこで線を引くかは客層の構成次第で、一律の正解がありません。訪日客比率が読めないまま英語表記を増やすと、既存客の注文体験だけが悪くなる、ということも起こります。
外国語の口コミ返信|踏み込みの深さを言語ごとに決められるか
外国語の口コミにも返信は有効です。翻訳ツールを使えば、文面自体は作れます。実際の運用で止まるのは、そこではありません。日本語では自然な丁寧さが、機械翻訳を通すと英語では素っ気なく、別の言語では逆に大げさに届くことがあります。同じ一言の謝意でも、どこまで非を認めた表明として読まれるかは言語圏によって違い、踏み込みすぎた一文が後から責任の所在を巡る話に発展することもある。そして線引きを間違えても、店側には何も返ってきません。読んだ人が黙って候補から外すだけなので、返信が裏目に出ているという事実は数字にも次の口コミにも現れないからです。しかも返信は公開されたまま残り続けるため、違和感に気づいた時点では、すでに何十人もの検討者がそれを読んだあとです。判断材料は自店に届いた口コミだけでは足りず、同じ商圏で訪日客に選ばれている店がどの言語にどう返しているかと突き合わせて初めて、踏み込みの目安が立ちます。※当社FACTORは、多言語での口コミ返信を、返信方針の設計から月次での打ち手の入れ替えまで含めて運用ごと引き受けています。方針を決めるとき見ているのは自店に届いた口コミだけではなく、同じ商圏の競合にどの言語圏からどう入っているか、その差が表示のされ方にどう効いているかまで並べて逆算しています。この比較材料は自店の管理画面には出てこないため、社内では組み立てにくい部分です。訪日客の口コミが増えてきて手が回らない、という段階でご相談いただくことが多い領域です。
自店の場合、どの言語のどの検索語から拾いにいくべきか、そのために何を先に整えるべきかは、実際のプロフィールの状態と競合の並びを見ないと決められません。無料のAI診断では、GoogleマップのURLを入力すれば、要点はその場で表示されます。
業種・立地別の考え方
訪日客との接点の出方は、店の立地と業種でかなり違います。ただし接点が多いことと、そこから先に手を入れるべきかどうかは別の話です。
| 状況 | 訪日客との接点の生まれ方 | なぜ自店だけでは判定できないか |
|---|---|---|
| 観光地・ターミナル駅周辺の飲食店 | 現在地起点の検索で並ぶ場面が多い | 並ぶ回数が多いぶん外れる回数も増えるが、外れた理由は自店の記録に一行も残らないこと |
| 宿泊施設・体験サービス | 来日前のリサーチで比較される | どこで候補から落ちたのかは店側に届かず、落ちた理由が分からないこと |
| 住宅街の美容室・サロン | 在住外国人との接点が中心 | 商圏にどれだけいるかは管理画面に出てこず、体感以上のことは分からないこと |
| 商圏が地元中心の業種(学習塾など) | 接点は限られる | 限られる度合いが立地で変わるため、実際の並びを外から見るまでは見えないこと |
すべての店がインバウンド対応をすべき、とは言いません。ただ、訪日客が実際に店の前を歩いているエリアでマップ上の情報が日本語のままの「見えない店」になっているなら、それは広告枠を買わずとも拾えるはずの需要を、設計していないというだけの理由で逃している状態です。
よくある質問
英語ができなくても訪日客の集客はできますか?
Googleビジネスプロフィールに外国語の説明文を登録できますか?
外国語の口コミには何語で返信すべきですか?
まとめ
訪日客の集客は、専用の広告枠を買うところから始まるものではありません。彼らが実際に使っているGoogleマップの上で、どの言語のどの検索から拾いにいくかを先に決め、そこから逆算してプロフィール側を組み直す。2024年に約3,687万人と過去最高を更新した訪日客の流れは、観光地だけでなく街中の店にも及んでいます。厄介なのは、ここを取り違えても失敗としては現れないことです。効かない欄を丁寧に整えた月も、手を動かした実感だけはきちんと残るからです。数ヶ月後に「やったのに変わらない」となったとき、狙いが外れていたのか、そもそも訪日客の通らない立地なのか、手を入れた欄が的外れだったのかを切り分ける材料は、もう手元にありません。並びの履歴は自店に残らないので、手元の数字を何か月ぶん並べ直しても答えは出てきません。外から見たときの出方は、店の中からは再現できません。英語設定の端末で自店を開いても、そこに映るのは自店の状態だけで、同じ画面に誰が並んでいたのか、どの場面で自店が外されたのかは映らないからです。そこだけは、外から見える形で持っている側に出してもらうほうが早い種類の話です。
NEXT ACTION
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記事で挙げた観点が自店に当てはまるかは、実際の状態を見ないと判断できません。まず現状の把握から。
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