月次のレポートを開くと、経路リクエストの棒グラフが前月より伸びている。担当者からも「反応は出ています」と説明を受ける。ところが店に戻ってレジ周りを見ると、先月と同じ景色が広がっている。どこかで嘘をつかれている気がするけれど、どこが嘘なのかは指摘できない。この居心地の悪さは、担当者が数字を盛っているから起きているのではなく、経路リクエストという数字が来店の手前で切れているから起きています。この記事では、増えているのに来ないという状態の中身を、数え方の側から見ていきます。
レポートの数字と、店の実感がずれる
最初に確認しておきたいのは、この食い違いがかなりありふれている、ということです。経路リクエストが伸びているのに来店が動かない、という相談は珍しくありません。そして多くの場合、レポートの数字自体は正しく出ています。
ずれているのは数字ではなく、数字と来店のあいだの距離です。経路リクエストが増えたという事実は、「この店に行こうと考えた人が増えた」ことまでは示しますが、「その人が店に着いた」ことは示しません。あいだに何段階かあって、そのどこかで人が抜けていれば、片方だけが伸びます。
ここで起きやすいのが、原因の取り違えです。数字が伸びているのだから施策は効いている、あとは店内の問題だ、と考える。あるいは逆に、数字が伸びても来ないのだからこの施策は無意味だ、と考える。どちらも、あいだで何が起きているかを見ないまま結論を出しています。そして両方の結論は、打つ手が正反対を向きます。
放置したときに起きるのは、単に一か月ぶんの機会を逃すことではありません。切り分けができないまま次の判断が止まるので、続けるか手を入れるかを決められない時間が積み上がります。その決められない期間ぶん、行こうと考えたところまで来ていた人が、同じ商圏の他店の並びに吸われ続けます。しかも失った側は数字に出ません。来なかった人のことは、どの記録にも残らないからです。止まっているのが自店だけ、という状態が静かに続きます。
経路リクエストは、どこまでを数えているのか
Googleビジネスプロフィールのパフォーマンス欄に出てくる経路リクエストは、マップ上で自店を目的地としてルート検索が実行された回数です。
ここで重要なのは、数えられるのが「実行された」時点だということです。そのあと実際に移動したかどうか、途中で別の店に変えたかどうか、そもそも今日行くつもりだったのかどうかは、この数字の外側にあります。同じ人が何度も調べれば、その回数ぶん積み上がる場面もあります。
この数字は「来店の予測値」ではなく「検討の痕跡」に近い性質を持っています。検討が増えたことと、来店が増えたことは、重なる部分はありますが同じではありません。レポートの棒グラフはこの違いを表現しないので、見る側は自然と来店の代わりとして読んでしまいます。
もうひとつ、地図アプリの使われ方の変化があります。目的地をとりあえず調べておいて後で行く、という使い方が広がると、調べた日と行った日がずれます。月次で切ったレポートでは、この時差が「増えたのに来ない」という形に見えます。翌月になって来店が動いても、そのころには経路リクエストの数字は別の動きをしているので、対応づけができません。
総数が同じでも、中身が入れ替わっていることがある
ここが、実務でいちばん見落とされる部分です。
経路リクエストの総数は、ひとつの数字にまとめられています。ところがその中身は均質ではありません。近所から調べた人と、車で一時間かけて調べた人が、同じ一件として積まれます。店名で直接たどり着いた人と、地図を眺めていて目に入った人も、同じ一件です。営業時間内に調べた人と、閉店後に調べた人も区別されません。
だから、総数が伸びているのに来店が動かないとき、伸びた部分が来店につながりにくい性質の検討で埋まっている、という状態があり得ます。施策が外れているのではなく、拾っている層が入れ替わっている。逆に、総数が横ばいでも中身が来店しやすい側に寄っていれば、売上だけが動きます。数字の動きと店の実感が噛み合わないとき、この入れ替わりが裏にあることがかなりあります。
そして、この入れ替わりは自店のパフォーマンス欄には表示されません。表示されるのは合計と推移で、内訳の性質までは降りられないからです。自店の数字がどちらの状態にあるのかは、外から見たときの自店の出方と突き合わせないと切り分けられません。GoogleマップのURLを入力すれば、要点はその場で表示されます。
経路を開いたあと、人はどこで引き返すのか
ルート検索を実行した人が来店に至らないとき、あいだで起きていることは一種類ではありません。ただ、大きく二つの向きに分かれます。
ひとつは、行こうとしたが到達できなかった側。もうひとつは、行こうと思ったが気が変わった側です。この二つは症状がまったく同じで、しかも打つ手が逆を向きます。到達できなかったのなら、たどり着き方の側に手を入れることになります。気が変わったのなら、そこを整えても数字は動きません。むしろ、気が変わる理由が残ったまま案内だけが親切になると、来る人の期待と実物の差が開いて、あとで口コミに出てきます。
どちらの向きなのかを店の中から判定しようとすると、たいてい行き詰まります。到達できなかった人は店に現れないので、記録が残りません。気が変わった人も同じです。自店に残るのは「来た人」の記録だけで、来なかった人の理由は最初から手元にないという非対称があります。
そのうえ、判定に必要な材料の多くが自店の外を向いています。自店のパフォーマンス欄に出るのは自分の数字だけで、そのとき隣に誰が並んでいたかは残りません。比べる相手が写らない写真を見て、位置関係を当てるようなことになります。
※この切り分けと、そのあとどこから手を入れるかの設計は、当社FACTORが引き受けている領域です。判断するとき見ているのは自店の数字だけではありません。同じ商圏で並ぶ同業が地点ごとにどう出ているか、その並びが時間帯と曜日でどう入れ替わるか、検索の言い回しを変えたときに自店が候補から落ちる場面があるかまで並べて逆算しています。この比較材料は自店の管理画面には出てこないため、社内では組み立てにくい部分です。
なぜ自店の数字だけでは判別できないのか
ここまでを整理すると、経路リクエストと来店のずれは、担当者の怠慢でも計測の不具合でもありません。数字が検討の時点で切れていること、そして中身の性質が表に出ないことから来る構造の問題です。
そして、この構造には店側から埋めようのない部分があります。社内の誰かが自分の端末で確かめても、遠方から調べている人が見ている画面とは別物が映ります。
もう少し具体的に書きます。この判定に要るのは、こういう性質の観測です。同じ検索語を、商圏の中の離れた地点から何度も引いたときに、自店が候補に残り続けるかどうか。並んでいる同業の顔ぶれが、時間帯と曜日でどう入れ替わるか。言い回しを変えたときに、自店が拾われる場面と落ちる場面がどこで分かれるか。そして、それが数週間のあいだにどう動くか。どれも一度きりの観測では形になりません。複数の地点と複数の時点を並べて、初めて中身の入れ替わりが見えます。
店の中にあるのは、自店の合計値と来店記録です。そこには他店の並びも、候補から落ちた瞬間も、来なかった人の理由も残りません。担当者の注意が足りないという話ではなく、記録の取りようが最初から無いという違いです。だから社内で何度議論しても、材料が増えないまま同じ推測を繰り返すことになります。
経路リクエストが伸びているのに手応えがない、と感じているなら、施策を足したり止めたりする前に、まず外から見たときに自店がどう出ているかを確認してください。外から見たときの出方は、店の中からは再現できません。そこだけは持っている側に出してもらうほうが早く済みます。どちらの向きの問題なのかが決まってから手を入れれば、結局は早く進みます。
よくある質問
経路リクエストが増えているのに来店が増えません。計測が間違っているのでしょうか?
経路リクエストは、何を示している数字だと考えればよいですか?
来店につながらない原因は、店の外と中のどちらにあるのでしょうか?
経路リクエストを増やす施策は、続ける意味がありますか?
まとめ
経路リクエストが伸びているのに来店が動かないとき、多くの場合レポートの数字は正しく出ています。ずれているのは数字と来店のあいだの距離のほうです。この数字はルート検索が実行された時点で積まれ、そのあと移動したかどうかは含まれません。しかも総数はひとつにまとめられていて、近所から調べた人と遠方から調べた人、営業時間内に調べた人と閉店後に調べた人が同じ一件として並びます。だから総数が伸びても、伸びた部分が来店につながりにくい性質で埋まっていることがあります。さらに、たどり着けなかった人と気が変わった人は症状が同じで打つ手が逆を向きますが、どちらも来店していないため自店に記録が残りません。切り分けができないまま続けるか止めるかを決められない時間が積み上がると、その間も同じ商圏の他店の並びは動き続けます。施策を足したり止めたりする前に、まず外から見たときに自店がどう出ているかを確認してください。
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